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Thursday, July 19, 2012

019. 映画「ヘルタースケルター」、そして2012年の狂気とは



原作の漫画が好きというのは言うまでもなく、世代ですから、という感じなのだけど、蜷川実花さんが監督というニュースのあとに、岡崎京子さんの「原作に忠実に行うのも、演者の体内を通してどのように変貌するのかも、受け入れる準備は出来ている」というコメントを読んだので、そこにリスペクトが行ってしまっていたところがあります。
なので蜷川節とかアートワークがセンスがディレクションが世界観が、そういった話はあまり問題ではないかなーと。

というのをふまえて、さて、観ての感想です。


まず、岡崎さんは、ひとりの女性の狂気を描く人だと思っているし、確か本人もそう言っていたハズ。
でも、この映画に狂っているひとはひとりも出てきません。どうしてなのかな?と思うわけです。


細かくはいろいろあるのですが、大きくはふたつ。

ひとつは、このテーマが2012年に向いているものかどうかが少々疑問だということ。
美しさに執着し、全身整形してトップに立ついじらしい女の子のお話、なわけですが、はたしてこういう女の子が今メディアに登場したとして、全身整形なんだって!ありえない!!ってなるのでしょうか、というのが疑問。
全身整形なんてじゅうぶんあり得る2012年、なわけです。
全身整形そのものについては、原作の時代よりも今のほうがぜんぜんリアリティあるよなーとは思います。だからこそ、クリニックの存在や全身整形に踏み込む覚悟みたいなものが「とてつもないもの」にはなり得ない。そこに違和感がありました。技術的にも、精神的にも、もっと簡単に気軽にできるものなんでないのかなーと思ってしまう。だからどこかしらじらしい。原作を読んでいる(リアルタイムで)私はもう、初見で接することはできないわけで、今の若い子たちはこのテーマをどう見るのかな、と思ってしまいました。


もうひとつは、原作への忠実さ。
蜷川さんは、きっと、本当にこの原作が好きなんだろうなというのが痛いほどわかりました。ヴィジュアルや世界観などの「蜷川的なところ」を省いて見るならば、そこにはよくも悪くも原作がどん、と鎮座していました。
かなり忠実に台詞なども再現されている、のです。(ここ小出裕章さんテイストで発音)
で、それが結構無理あるんだなー。ということに気づいてしまった。私は岡崎さんの漫画のなかでも特に「ヘルタースケルター」は映画のような漫画だなと思っていて、それはややミニシアター的というか、ヌーヴェルバーグというか、まぁなんでもいいんですけど、コマ割りとか展開のしかたがすごく映画っぽくて、そこが好きだったんですね。
でも、やはり岡崎さんの漫画の台詞というのは「文字」なんだな、と思いました。映像ではない、生身の人間が話すものではないのだなと。結局「詩」なのかなと。
いちばんそれを感じたのが大森南朋なんですけど、彼の扮する検事はどちらかというと若き日のオザケンのようなーーなんかこうちょっと無機質で、結局、こんなキャラ実在しないよね的な男性なんですよね。そういう人は「ようこそ、タイガー・リリィ」とか「僕の子猫ちゃん」とか「ごめんねハニー」みたいなこと言っても普通なんですけど(この台詞が劇中にあるわけではないです、イメージね)、生身の人間が言うとやっぱりちょっと無理あるなぁというか。別に言ってもいいけど、お芝居になっちゃう。そこはリアリティ持たせるために工夫してもよかったのではないかなと。大森南朋は演じるの大変だっただろうな、と思いました。

唯一原作と大幅に違うところが寺島しのぶ扮するマネージャーのキャラで、この人すごく不思議でした。全然感情移入できないニュータイプ。漫画っぽいわけでもなく、生身っぽくもなく。いちばん人工的でリアリティのないキャラはこの人だったなのではないでしょうか(寺島さんの演技はお上手です)。

その割に、人間関係や感情は希薄に描かれていて。たとえば、原作では屋上でキンちゃんがりりこを説得する場面があるのですが、そこもうちょっとやってほしかったな、とか。場面は出てくるんだけど情的なものがあんまり出てこないんですよね。記号的なのは出てくるんですけど。セックス、暴力、ドラッグ、叫び、涙、そういったものをカタチとしては見せるけど……というか。音楽がこれ、映像がこれ、セットがこれ、衣装がこれ、そういったセンスはもう「受け入れる準備は出来ている」の言葉が印籠となって何を言うつもりもないんですが、PV的になってしまっているのは非常に残念で、そっちの方向で原作に忠実になられても困っちゃうなーという感じがありました。

最後のシーンもちゃんと描かれてるんですが、こーいった解釈ですか??? て感じで。これじゃアメリカ映画ではないの?岡崎さんのフレンチテイスト入れなくていいんですか?みたいなのは気になりました。


それから狂気のシーンはディズニーランドみたいで、やっぱりリンチの足下にも及ばないというか、日本のキッズ向けに作ったのかなぁ?ってなんかだんだん冒頭と矛盾したことを言いそうになってきたのでこの辺で。


それから、間違いなく沢尻エリカは命がけでこの映画に挑んだのだろーなーと思うし、実際すごくまじめな人なんでしょうね、この人。それが役にもぴったりだった。「持って生まれちゃった人」こずえ役、水原希子との対比はナイスキャスティングです。


DVDで観る価値はあまりない映画と、個人的には思います。ので、観たいかたはぜひ劇場で。